フランスの食文化にふれて磨かれた
植物への独自視点

私たち夫婦は、結婚後、「INFLORESCENCE(以下アンフロレッサンス)」というユニットで『花と植物がある風景』をテーマにした創作活動を行っています。活動内容は、ワークショップやポップアップイベントの企画・開催、オブジェの販売や店舗ディスプレイ、植物を取り入れたドリンクやフードのレシピ提案、コンサルティングなど、多岐にわたるもの。いただいたご縁を大切に、植物にふれるひとときを夫婦でゆったり楽しみながら、余裕をもって取り組むようにしています。 夫は若い頃にフランスに留学し、フランス料理の仕事に長年携わってきました。フランスの美食文化はとても奥深いものです。洗練された空間で一流の食材やシェフの創造性、豊富な知識を有するサービスパーソンのもてなしを含めた「体験としての美食」を味わう文化があり、その体験の場としてのガストロノミーレストランがあります。夫はそこでサービスパーソン兼ソムリエとして働いており、その経験が彼独自の美意識を育んだのではないでしょうか。もともと植物が好きで、本来の仕事に加えてお店にお花をディスプレイしたり、休日には植物を使ったオブジェ作品を作ったり、頼まれて植物素材を用いたドリンクのレシピを考案していたことが、現在の活動にもつながっていると思います。

美食を提供する傍らで大きくなった
素材まるごとを提供することへの想い

夫に聞くところによると、星つきレストランの宿命として、特別なひとときのための美食を提供するには食材を完全に使い切ることが難しいシーンもあったそうです。そんな経験を経て私たちの活動では、一部分を切り取るのではなく植物や食材を余すところなく提供するなど、自然にやさしい在り方に意識が向くように。ちょうどそのころ、環境に配慮したトータルライフスタイル施設「GOOD NATURE STATION」の中にある「Hyssop(ヒソップ)」というカフェ・レストラン&バーの企画に声をかけてもらいました。店名やコンセプトメイク、ロゴや空間デザイン、商品開発と幅広くご一緒しています。ヒソップは「浄化」という花言葉をもつハーブの名前。お店という空間やそこに滞在する時間も含めて「ヒソップ」をまるごと味わうようなイメージをもたせており、植物を五感で感じられるような仕掛けを色々提案させていただきました。

植物がもつストーリーを
さまざまな角度から味わってほしい

さらに、夫は長年レストラン業界に身を置いてきたなかで、おいしさへの探究や単純に胃袋を満たすこととは違った角度で、「食の価値」を作れたらと思うようになっていったそうです。また、植物にふれるなか、いわゆる装飾とは趣向が異なるお花の生け方を提案したいと考えるようにも。その想いに私も共感したことで、私たちの活動では「食と植物の間のデザイン」を意識するようになりました。植物を鑑賞するように、そのストーリーをさまざまな角度から味わうことをテーマにした作品づくりにつながっています。

アプローチに多面性をもたせた
食と植物の間のデザイン

たとえば、わたしたちがお茶を飲むときは、お茶だけがグラスに入った状態で提供されるのが一般的ですよね。ですが、アンフロレッサンスでは「お茶の原料である植物そのもの」までもインスタレーション的に体感してもらいたいと考えています。具体的には、お茶の原料となる植物がどのような場所で育ち、どのような姿形をしているのか、どのようなにおいがするのかまでも想像してもらいたいんです。視覚、嗅覚、味覚、触覚など五感をその方なりに自在に組み合わせながら、「食と植物の間のデザイン」を通して「植物がある風景」をイメージしてもらえたらと考えています。ハーブや植物をポットにそのまま入れたインパクトある見た目のドリンクも、その想いから考えたもの。このドリンクを前にしたときに、目で楽しむ人、香りから楽しむ人、実際に触れてみた感覚を楽しむ人、原料のハーブの組み合わせを面白がる人など、さまざまなアプローチが生まれるんです。そういったきっかけづくりに多面性を作っておくことは、私たちが大切にしていることのひとつ。「全体を想像する入り口は、その人の感性のままに見つけてほしい」と思っているからです。

京都の庭園での学びから生まれる
新たな楽しさ

現在、『花樹庭園図』という植物造形作品シリーズを作っているのですが、そのモチーフとして庭園を参考にすることもあります。「GOOD NATURE STATION」の仕事をきっかけに京都に移住し、夫婦で時間を作ってお寺や庭園を回るようになりました。その場に身を置くだけで心が落ち着くとても大切な時間です。お庭に詳しい方に教えていただく機会もあり、季節の変遷を感じながら、植物たちの表情、それぞれのお庭の歴史や作り手の意図に触れることが本当に面白く、たくさんのインスピレーションを与えてくれます。

数多く回るうちに、お寺の建立や庭園が造営される背景には、どのような思想があったのだろうと想像するようにもなりました。未知の領域である歴史や文化を深掘りすることで知識が増え、その先に奥深さや楽しみがあることを知りました。私たちが提案するブーケドリンクや『花樹庭園図』などにもそういった奥行きを出したいと思い、より一層深い理解を心がけています。同時に植物をテーマにした活動の可能性も、より広がっている感覚がありますね。たとえば、着物に描かれている植物。染料や描かれやすい植物の変遷などについても学び、京都ならではの特性も活かしながら、私たちなりの解釈でその面白さを発信できたらと考えています。

植物のチカラを借りて、
健やかに活動し続けたい

植物を扱う活動をしていると、自宅に多くの植物が集まってきます。みずみずしい香りや鮮やかな色はパワーを与えてくれますよね。フレッシュな状態を楽しんだあとはドライフラワーにしたり、ハーブや果物を組み合わせてシロップやジャムにしたり。ジュニパーベリーを煮出しながらハーブティーを少し加えて、最後にリンゴを入れると綺麗な赤いシロップができます。それをさらに煮詰めてシナモンなどのスパイスを加えることも。ヨーグルトにそのままかけてもいいし、炭酸水などで割るとフレーバーソーダに。ジンやウォッカなどリキュールとの相性も抜群です。

ブーケドリンクの例もそうですが、視覚でも嗅覚でも、植物の奥深い面白さにふれるきっかけはその人なりの気づきにまかせたいと考えています。同じように、植物のチカラを借りたナチュラルビューティスタイリスト検定の学びを通しても、「健康維持のための方法は自分が取り入れやすいものからでいいんだよ」と伝えられている印象を受けました。「食事や運動、睡眠、アロマなど、さまざまな健康へのアプローチはあるけれど、自分流に取り入れていけばいい」と教えてもらった感じですね。私も夫もそれぞれ別の仕事をしながら、精神的にも時間的にも余裕をもってアンフロレッサンスの活動に取り組んでいるスタンスに通じる部分もあるかもしれません。無理なく継続することが大切だと思いますし、これからも植物など自然なものにふれる時間を自分のペースで増やしていきたいと考えています。検定のテキストには心身を健やかに保つ基本が詰まっていると思うので、頑張りすぎて疲れてしまったときや、なんとなくコンディションがよくないときに立ち返る原点として大切にしたいですね。